2025年現在、「大量退職時代(Great Retirement)」はすでに始まっており、深刻なナレッジギャップを生み出しています。APQCの新しい調査によると、平均して企業は、今後5年以内に労働力の51%が退職または離職すると見込んでおり、数十年分の知見が失われるリスクが急速に高まっています。
この差し迫った大量退職の波は、「シルバー・ツナミ(Silver Tsunami)」とも呼ばれています。2030年までに、推定6,100万人の団塊世代が労働市場から退出し、長年培われた専門知識や組織の記憶が同時に失われると見られています。経営層の問題認識は高く、多くの経営者が「重要な知見が組織の外へ出ていく」ことを理解しています。しかし、その認識が行動に結びついていないのが現状です。
APQCは、リーダーが脅威を認識しているにもかかわらず、多くの組織で退職者の知見を体系的に収集・継承するための継続的な仕組みが整っていないと指摘しています。
退職者からのナレッジ引き継ぎの頻度分布

出典:APQC「The Great Retirement: Knowledge Loss, AI & The Workforce Shift」(2025年8月)
経営層は危機感を持つが、対策が進まない理由
経営層がナレッジ損失を深刻な課題として理解していること自体は前向きな兆候です。しかし、構造的な解決策が依然として少ないことは問題です。APQCの調査では、多くの企業が、退職予定者に対する正式なナレッジ継承プログラムを持っていないことを認めています。
多くの場合、ナレッジ継承は場当たり的に行われます。たとえば、退職直前の短期間で引き継ぎを急いだり、数回の引き継ぎ会議を実施したりする程度で、継続的な取り組みとして実施されているケースは少数です。ある専門家は次のように述べています。
団塊世代が組織を去る問題に対して、一貫性があり創造的な対応を取っている企業は非常に少ない。
結果として、退職者とともに重要な知見が去り、翌日から組織がその穴を埋めるために混乱することになります。
経営層の意図だけでは不十分であり、ナレッジが失われる前に、それを確実に収集するための具体的なプロセスと時間投資が必要です。
ナレッジ共有が進まない現場の実態(属人化の問題)
APQCの「大量退職時代」調査で明らかになった重要な発見のひとつは、現在のナレッジ収集がいかに不定期で不十分かという点です。驚くべきことに、41%の企業が、退職者からの知見収集を「ほとんど行わない、または全く行わない」と回答しています。
よくある例が、退職前に実施される退職面談です。何もしないよりは良いものの、積み重ねられた経験を短期間で引き出すには到底不十分です。その結果、暗黙知(現場のコツ、判断の背景、過去の経緯、文章化されない教訓など)がそのまま消失してしまいます。後任者はゼロから再検討することを強いられ、前任者がすでに解決していた問題を再び時間をかけて解決することになります。
実際、ある調査では、41%の従業員が、前任者からの引き継ぎが不十分だったために、新しい業務をほぼゼロから始めざるを得なかった経験があると回答しています。こうした組織的記憶の欠落は、回避できたはずのミスや、オンボーディングの遅れ、生産性低下を引き起こします。
技術継承を阻む3つの壁:時間・リソース・文化
なぜ多くの組織は、退職するメンバーの知見を十分に収集できないのでしょうか。APQCの調査は、よくある障害をいくつか示しています。
最大の障害は「時間」です。52%の企業が、日々の業務や納期に追われ、追加のナレッジ共有セッションを行う余裕がないと回答しています。忙しい現場にとって、「ナレッジ収集」のためにベテラン技術者を確保するのは難しく、目の前の問題対応が優先されがちです。
次に大きいのが「リソース不足」(45%)です。退職前に後任者との重複期間を設けるための予算がない、あるいは引き継ぎプログラムを運営する専任担当者がいないといった状況です。
3つ目の課題は「組織文化」(35%)です。ナレッジ共有を推奨する文化がないため、取り組みが根付かないというものです。後任者を育てることへの心理的抵抗や、学びを文書化する動機づけがない場合、意欲的なプログラムも形骸化します。
ある専門家は次のように述べています。
「知識共有は企業文化の一部であるべきだ。すでに実現できたことをなぜ繰り返すのか。何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかは共有されるべきだ。」
過去から学ぶ組織文化が不可欠であり、それがなければ誰も時間を割かず、重要な知見は個人の頭の中に閉じ込められたままになります。
これらの障害を乗り越えるには、経営層の関与と支援が必要です。たとえば、プロジェクトスケジュールに知識継承の時間を組み込む、評価制度に反映するなど、時間とインセンティブの設計が求められます。また、メンタリングや文書化を行う社員を評価することで、共有を促す文化づくりも必要です。
しかし、時間や文化の整備だけでは、十分とは言えません。実際にナレッジを「使える形」で残すためには、日々の業務の中で無理なく実行できる実務的な手段が必要になります。その一つとして、テクノロジーの活用が現実的な選択肢になりつつあります。
手遅れになる前に始めるべきナレッジ継承の第一歩
APQCが示す「大量退職時代」の調査結果は警鐘です。対策がなければ、今後数年で組織の知見の半分が失われる可能性があります。しかしまだ手遅れではありません。多くの経営層がすでに危機を認識している今こそ、「認識」から「実装」へ移ることで、知見損失をナレッジ再生の機会へ変えることができます。
まずは、退職が近い、あるいは離職リスクが高いキーパーソンを特定し、その知見を優先的に収集することが重要です。インタビュー、メンタリング制度、ナレッジベース構築ツール(できればそれらを組み合わせる)など、複数の手段を組み合わせて進めるべきです。さらに、知識共有が「後回し」ではなく価値ある行動として評価される文化づくりも不可欠です。
こうした仕組みがあれば、個人が去っても、その貢献は組織に残ります。検索でき、再利用でき、次世代のメンバーに継続的に価値を与え続ける形で、知見が蓄積されていきます。
Tektomeは、こうしたナレッジ継承や属人化の課題に対応するため、AEC業界向けに設計されたナレッジ基盤「KnowledgeBuilder」を提供しています。
図面・注釈付き資料・報告書・写真など、過去のプロジェクト成果物をAIで解析・構造化し、検索・再利用可能な形で蓄積することで、退職や異動があっても知見が組織に残る状態を支援します。
機能のオンラインデモも公開しています。関心のある方は、こちらのリンクよりご覧ください。
